最初に莉子のことを好きだと思ったのは、いつだったか悠斗は覚えていない。
高校の頃に初めて会ってから、悠斗はずっと莉子に憧れていた。
文武両道で、正義感が強くて、真面目で、おまけに美人。
悠斗は女子の前では上がってしまってうまく話せないような性格だったが、莉子に対しては素顔で話をすることが出来た。
――高校を卒業するころには莉子の存在が、悠斗の中でどんどん大きくなっていた。
お互い、東京の大学に進学すると聞いた時は飛び上がって喜んだ。
地元には、莉子の事を狙っている男が沢山いる。他の男より有利になった、と。
だが悠長に優越感を感じていたのは最初まで。
東京は都会だ。沢山の誘惑がある。美人で文武両道な莉子はそれはもうモテた。
誰かの誘いを受けているのは見なかったが、悠斗は不安だった。
見目の綺麗な男も沢山いる。見目は別として誠実そうであったり、学歴や将来への展望が悠斗とは天と地ほどの差がある男たちが、莉子を狙っているのである。
悠斗の焦りが頂点に達した6月の下旬ごろ。
悠斗は意を決して、莉子のことをデートに誘った。
莉子の返事は‶イエス‶だった。
「この紅茶、美味しいね」
「う、うん…」
陶器性の白いカップは凄く上品で繊細で、悠斗には少し荷が重い。
お洒落な街の、お洒落なカフェで待ち合わせ。それを指定したのは悠斗だ。
女性客に人気のあるこのレトロな隠れ家カフェなら静かにお互いの近況を話せるかと思ったから。
だけど実際は違った。莉子を目の前にすると上手く言葉が出ないのである。
「悠斗くん?」
「え?」
莉子が猫目気味の瞳をゆったりと曲げて、悠斗を見て笑う。
「今日は誘ってくれて有難う」
その一言だけで、悠斗の願いはもう叶ったようなものに思えた。
二人で映画を見た後、夕飯は奮発して焼肉を食べた。
少し高い所だったから、悠斗の懐(ふところ)的には痛手であったが喜ぶ莉子の顔を見ているとそんなことなんでもないように思えた。
焼肉を一緒に食べることの出来る男女は深い仲、というのは偶に聞く噂話だがまんざら嘘でもないのかもしれない。
莉子のアパートの近くまで来て、
悠斗の心臓は爆発しそうな程うるさく泣いていた。
――伝えなくては、今回くらいしか機会はないだろう。きっと、日常に戻ればなんやかや自分に理由を付けて伝えないままで終わってしまう。
「ちょっと散歩していかない?」
提案する莉子の頬にも、ほんのりと赤みが差していることに気付かないまま悠斗は、うん、と頷いた。
莉子のアパートの少し手前、遊具の備え付けられた公園に入り、二人とも何となく黙ってベンチに座る。
奥の方のブランコで、男女のカップルが騒いでいるのが見えたが今はそんなことはどうでもよかった。
「り、莉子、あのさ…」
「うん、な、なに?」
「………、今日、楽しかった?」
「楽しかったよ、また行きたい、くらい…」
莉子の小さくなる語尾に、悠斗もまた照れて返す言葉が見つからない。
言わねば、言わねば、と思う度に何となくタイミングを逃している気がする。
「あの、莉子」
「キャー!ちょっと、早い!早い!」
伝えようと顔を上げたタイミングで、ブランコでふざけ合っている男女の大きな声に邪魔された。
大きな体躯の男が、綺麗な女をブランコに乗せて後ろから押しているらしい。酔っ払っているのだろうか。
「た、楽しそうだね」
「そうだね…」
完全に話題が転換してしまった。今のタイミングがベストだった気がするのに、気が散るようなことをしてくれる。
悠斗は無意識のうちに、早くどこかへいけ、という願いを込めてブランコの方を睨んだ。僕の3年間の想いの集大成なんだ、邪魔するな。
運が悪かった、としか言いようがないだろう。
たまたま止まったブランコから降りようとする女と目があった。
たったそれだけ。それが惨劇の始まりだなどと、誰が思っただろう。
「あんたさっきから何?なにチラチラ見てんの?」
女が此方に声を投げると、後ろにいた男が此方へ向かってくる。
筋骨隆々のスキンヘッド、いかにも屈強そうな男だ。
女は、ストレートの黒髪にメリハリのついた綺麗なボディライン、整った顔立ちをしているがその瞳の奥はどこか冷たい。
悠斗は莉子に視線を合わせる。
莉子は怯えた様子で、眉をひそめている。男の自分がなんとかせねばならない。
悠斗はやってくる男から莉子を庇うようにして立ち上がった。
「す、すみません、何やってるのかなーって…思って…」
「何やってるのかなーって目つきじゃなかっただろ、テメェふざけんてんのか」
男が凄むと、悠斗の胸倉をつかむ。異常なほどの力に、悠斗の身体が軽々と地面から離れる。
「すみません、ごめんなさい」
「謝れば済むと思ってんのー?クソガキ」
「お、お金、…お金ならありますから…」
多少の金銭で解消してくれるような輩であれば、どれだけ良かっただろう。
悠斗の言葉にさらに気を悪くしたのか、男は顔を歪めて悠斗の首を強く掴む。
首に食い込む太い指先に、悠斗はすぐさま酸欠になり意識を手放した。
莉子は、そんな悠斗の様子に怯えて竦んだまま動けない。何か言わねば、と思うのに声が出てこない。
「あらら、カレシくんねんねしちゃった。五条、トイレまで運んでやんな」
「はい、理名さん」
男――
五条と言ったか――は、理名と呼んだ女には従順な様子で、
悠斗を小脇に抱えると公衆トイレへと連れていく。
ここは確か男女兼用の誰でもトイレだ。車椅子でもはいれる広い個室だった筈だ。
莉子は自分の足ががくがく震えるのを感じた。
「カノジョも来てよ、カレシひとりじゃ可哀相でしょ?」
理名に腕を取られて――、持っていた鞄を奪われる。
逃げ出したくなる気持ちを抑え、莉子はそれに従う。
どうにか、どこかで逃げられれば――、悠斗を置いてはいけない。
色々な気持ちが錯綜する中、莉子は理名に引かれるまま、トイレへと足を踏み入れた。
「さーて、じゃあ睨んだお詫びにいいもの見せて貰おっかな」
理名の言い分に、莉子の身体がびくりと震える。
五条は、悠斗の手首を後ろ手にして、懐から取り出したロックタイで排水管に結んでいる。
これでは、切ろうにも切れないし例え悠斗が今目覚めたとしてもすぐには逃げられないだろう。
そもそも出入口は五条が陣取り、逃げようとすればすぐに捕られてしまう。
「…あの…、私、何をすれば…睨んでしまったのは、ごめんなさい。悠斗くんの分も私が謝りますから、」
どうか解放してほしい、と切に訴えた。
何をするのか知らないが、向こうも男女のカップル(なのかは、やり取りを見ていると微妙な線ではあるが)。
最終的に金銭で片がつくならその方が良い。
おずおずと顔を上げると、理名の切れ長で怜悧(れいり)な瞳がうっすらと熱っぽく歪んだ。
「本当に申し訳ないと思ってるなら、スカート捲って下着見せてみなよ」
「――なっ…!?」
この時から、私たちの悲劇が始まった。
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大学生カップルの悲劇 強制家畜つがい調教②
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