この記事は以下の続きです。未読の方は先にこっちを読んでね。
都会の中心部から少し離れた住宅街の一角に、その喫茶店はあった。
マスターである中年の男は、かつて依頼によって理名に救われた。
元々は裏社会で生きてきたこの男は、いまでも理名に定期的に情報を流す見返りに表社会では実現できない性癖を満たしている。
「こんばんは。マスター」
「おお。理名さん。」
「レイコさん。来てる?」
「はい。お越しです。いつもの部屋に」
「ありがとう。アイスコーヒーと、レイコさんにもレモンティーを一つ」
「レイコ様に既にご注文いただいていますよ。理名さんのアイスコーヒーも。」
「...なるほど。さすがだわw」
「ごゆっくり」
「あ。そうそう。今度、とある女優の卵の女に脇毛生やして飼うことにしたんだけど、脇汗をたっぷり染み込ませたキャミソールとかいる?」
「もちろんです。それを嗅ぎながら射精しているところをビデオ撮影して、その女に屈辱感を与えていただいても構いませんし、男のチンポが必要ならいつでもお呼びください。一週間程度洗わないで伺うことも可能です」
「アハハ。さすがの発想力だわ。次に店に来るときに持ってくるわね」
「楽しみに待っております」
喫茶店には一般客用のオープン席と、店の奥に常連用の個室が用意されている。
奥の個室部屋にはホワイトボードや、TV、テーブルなどがあり、その隣にキッチンがあるためこの個室で行われている会話や音は一切外部に漏れない構造になっていた。
接地されている小さな窓から漏れる音があったとしても、裏手にあるパチンコ屋の音と、定期的に絶え間なく通る私鉄の影響でかき消される。
理名の様な人間には最高の環境である。
コンコン♪
「失礼します。入っても?」
「ええ。空いてるわよ」
「失礼します」
「相変わらず、すごい威圧感ですね。レイコさん」
「あら。それはアナタにも十分備わっているわよ?」
「いえ。私なんかまだ全然...」
「正座」
「え?」
「そこに正座。理名」
「......うっ」
「私に逆らえる立場だったっけ?理名って」
「い......いえ...」
真っ黒なスーツに真っ黒なシャツに身を包み、漆黒の長髪を備えた女性。
レイコに大きな借りがある理名は、理名が唯一この世で委縮する存在だった。
冗談だと心では解っていても、強い言葉で命令されると逆らえない。
理名にとってレイコはそれほど強大だった。
「足を怪我しているので、ヒールだけ脱いでもよろしいでしょうか...」
「ふふ...」
「?」
「あっはっはw。相変わらず可愛いわねー。あなたは♡」
「......くっ」
「超ドSな残忍女。組織のコードネームQueenJoker。それなのに生粋のマゾ笑」
「ちょ......いくらレイコさんでもやっていい冗談とやっちゃいけな。きゃっ!」
理名が話し終えるよりも前に、レイコは間合いを詰めて理名の履いていたタイトスカートの中に手を入れる。
理名は蛇に睨まれた蛙のように全く身動きが取れない。
「あれれ?なんかここ湿ってない?」
「.........そんなこと......ありません」
「うそおっしゃい。私に命令された時点で熱くしていたくせに♡」
「......」
「かつて人間に戻してあげた私に、理名はゾッコンだもんねー」
「さすが激動の昭和を生きてこられたレイコさんですね。古い言葉を知ってらっしゃる。社長と"アベック"だったのも頷ける。」
「むかっ!笑。相変わらずね、ほんと。アンタは。」
「それもこっちのセリフですよ。とても100人以上を廃人にしてきた人とは思えない屈託のない笑顔だこと」
「あら。理名に評価されているなんて嬉しいわ」
「もう。なんなんですか、ホントに。早く本題に入ってくださいよ」
「あはは。ねえ、組織の件。考えてくれた?」
「……はい」
「で、答えは?」
「YESです」
「え゙......!!!」
「は?だからYESですってば」
「理名。あんなに拒んでいたじゃない。私には組織を束ねるのは向いてないとか言って。どういう風の吹き回し?てっきり断られると思ってたしどうやって拷問してイエスと言わせるか考えてたわ。」
「いや。復讐代行屋の二代目をオファーしてきたのはレイコさんでしょう。」
「それはそうだけど、さ。」
「先日とある依頼で、イジメられていたJKを救ったんですよ。美香っていうんですが。」
「へー。うん、それで?」
「彼女って絶対マゾなんですよね。でも、目の前でターゲットをイジメていたら恍惚な表情を浮かべて濡らしてるです」
「へぇぇ!!」
「『誰かに新しい性癖を宿すなら、それは最大の呪いであり、同時に最高の救いでもある』。そう仰ったのはレイコさんですよね」
「ええ。以前言ったわね」
「私なりの救い方がなんとなく見えたんですよ。それに、今の会社でただ”呪いをかける”だけの仕事はもういいのかな、と。」
理名は(有)代行のエージェントとして、最近美香という女子高生を救った。
それはイジメられていた美香の彼氏の依頼であり、理名は美香を虐めていた同級生の二人の女を徹底的に責め、家畜化し、その二人の家畜の管理をなんと美香に任せていたのだった。
そうしたプロセスの中で、理名は自分の抱える仕事の意義を見つけ出そうとしていた。
「なるほどね。まあ、あんたには元々その仕事は向いているようで向いてないのよ。里緒みたいな子ならまだしもね」
「里緒か。あいつもあいつなりに私は苦しんでいるような気がするんですけどね」
「そりゃー里緒だって完全じゃないからね。ただ、あの子はあんたよりもまだ ”単純なところ” にいる」
「かもしれません」
「理名は根が優しいからね♡」
「ちょ!優しいとかこの世界では最大の侮辱なんですが!」
「そりゃ、そうよね。その優しさのせいで私は複数の男に犯されているんだからね」
「う.........その......」
「ん?」
「あの時は本当に...本当に申し訳ございませんでした...。一生かけて償います...」
「もう昔のことよ。忘れなさい。それに組織をあなたに引き継ぎたいのは貴女の才能を見越した上でのオファー。自分なりにやりたいと思ったなら譲るけど、私への贖罪でやると言っているなら許さないわよ?」
「いえ。それだけは誓ってないと言えます。私は私なりに組織を成長させ、沢山のS女と共に救われない依頼者の光になりたいので。」
「光ね。でも理不尽な依頼も沢山来るわよ。むしろ、そっちの方が多いかもしれない。断るとこは簡単だけど、それだとこの職業も経営も成り立つことはない。」
「ええ。依頼は基本は断りません。理不尽な依頼や、逆恨みであっても、その中で依頼人には光を、ターゲットには私の中の救いを与えます。キレイ事だけど、私は呪術者ではなく救世者をあくまでも目指します」
「そう。それならば安心だわ。あなたなりの矜恃。大切になさい。」
「あ、あと、その時に救ったJKを裏で育てて、彼女が卒業したら迎えに行こうと思っています」
「あら。アナタがそこまで惚れこむなんて、その女の子は才能がありそうね」
「はい。きっといいエージェントになります。いつか一人前になったら会ってあげてください」
「ふふ。アナタらしいわね。本当に。」
「しばらくは副所長としてメイサを迎え入れ、一緒に組織を運営します。あと、ボディガード兼男性エージェントとして五条も招くつもりです」
「え。メイサちゃんってあのナンバーワンSM嬢で病院送りで有名な?」
「ええ。あれからも仲良くやってるので」
「さすが理名だわ。あんな子を手なずけるなんてね」
「別に手懐けてないですよ。気が合っただけです」
「メイサと五条が合流できるなら、組織も安泰ね」
「はい。お任せを。」
「そっか。これで"復讐代行屋"も安心だわ。あなたが二代目に就任したらようやく私も引退ね」
「そのことですが、組織名を変えてもいいですか?」
「え?まあ、別にいいけれど」
「性的復讐クラブ。英名でSexual Revenge Club。これに変更したいと考えています」
「あら。素敵じゃない。性的って付ける所以は?」
「暴力や、破滅に追い込む代行は誰も救わないからですよ。性的な復讐ならターゲットもどこか救われる。私はそう考えているので。」
「理名。性的に痛めつけて、それでいて且つ救うということがどれくらい難しいことか理解してるの?下手したら全てのターゲットがあなたに依存し、その依存によって今度はあなたが逆恨みの対象になるかもしれないのよ」
「勿論、心得ています。それでも誰かを呪うなら、同時に救う責務もある。そう私は考えています。」
「ただの復讐や復讐代行では、誰も救われない。そう、今の組織や私へ言っているのね」
「少なくともレイコさんには言ってませんよ。レイコさんから人を救うことも呪うことも全てを教わったから。」
「あなたは私に呪われて、救われたもんね」
「はい。私の人生はレイコさんが全てです」
「これまでは仮にそうでも、これからはあなたの人生は貴女のものよ」
「わかっています」
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